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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)2337号 判決 1968年1月30日

理由

一、被控訴人、訴外有限会社狩野商会間に被控訴人主張の商品のいわゆる継続的売買契約が締結され、その主張のような特約がなされたこと、訴外狩野陸が被控訴人との間に、被控訴人主張のように、主張の債権担保のため、主張の本件土地建物の上に根抵当権を設定し且つ右物件につき被控訴人主張の代物弁済の予約をなし、これに基づきそれぞれ被控訴人主張の根抵当権設定登記及び所有権移転請求権保全の仮登記をなしたことは当事者間に争がない。

二、よつて、右代物弁済の予約が控訴人主張のように合意解除されたものかどうかについて考えるに、まず、被控訴人と前記訴外会社及び狩野陸との間に、控訴人主張のように、和解事件につき和解がととのい、和解調書が作成されたことは、当事者間に争がなく、《証拠》によれば、その和解条項は被控訴人主張のとおりであり、該裁判上の和解は、被控訴人主張のように、和解条項(第一項)に特定して掲げられた貸付金の弁済に関してなされたことが明瞭であるところ、それが、前記根抵当権設定契約及び代物弁済の予約に代るもの、ないしこれらと併立できないものとしてなされたと認むべき資料は見当らない(たとい、控訴人のいうように、被控訴人は、当時、これら契約に基づいて、「本件土地建物も代物弁済によつて取得しようと思えば取得できる状態にあつた。」としても、「本件土地建物を取らず和解事件の土地建物―別紙和解条項物件目録第一、第二該当―だけを取得することに止めたのは、和解事件の土地建物だけで全債務の弁済ずみとすることになつていたからである。」とは直ちにはなし難いところであり、本件では、さように認定できるまでの資料は見当らないのである。)。結局、控訴人主張の合意解除の事実を肯認できる証拠はない。却つて《証拠》をあわせると、前記のように和解条項に掲げられた貸付金債権(合計金六八九万円)が計上されるに至るまでの経過事情に関する被控訴人の主張事実は、その主張の譲渡担保契約の性質をも含めて、すべてそのとおりであること、かくて、右譲渡担保契約ないし裁判上の和解では、本件土地建物とは別に、前記「和解事件の土地建物」が取り扱われ目的物件とされたこと、かような次第で、被控訴人はもとより右訴外会社や狩野陸も、右譲渡担保契約ないし裁判上の和解により本件土地建物についての前記根抵当権設定契約及び代物弁済の予約を解消せしむるものとはせず、今後ともそれらは、主として、商品取引上の代金の弁済確保のため、その必要が消滅していないところから、依然そのままとして継続せしめる意図であつたもので、現にその後も、取引は引き続き行なわれていたことが認められる。

三、しかして、右訴外会社が被控訴人主張の契約解除の、同会社及び狩野陸が被控訴人主張の代物弁済予約完結の、それぞれ書面通知を受領したことは当事者間に争がなく、この事実と、《証拠》とによれば、右訴外会社は昭和四一年一月二〇日被控訴人に対する商品代金債務一九二万〇二七三円の支払を遅滞したので、被控訴人が前記当該書面通知をもつて、右訴外会社に対し、約旨により前記商品の継続的売買契約を解除する旨の意思表示をなし、その結果、右契約は有効に解除され、被控訴人は訴外会社より即時支払を受け得べき合計金一、一七五万七、九七三円の債権を有することとなつたこと(なおその内訳は被控訴人主張のとおりであること)、しかるに訴外会社は右債務の弁済をしないので、被控訴人は、前記当該書面通知をもつて、訴外会社と狩野陸とに対して、それぞれ、本件土地建物を金一五〇万円と見積り評価し、これをもつて、右債権のうち同額金員の弁済に充当することとして、前記代物弁済の予約を完結する旨意思表示をなしたことを認むるに足り、これを覆えす証拠なく、成立に争がない《証拠》によれば、右土地建物の評価があながち不当ではないことが諒せられる。しからば、被控訴人は右代物弁済予約完結の意思表示により(充当の内訳はさておき)有効に本件土地建物の所有権を取得したものといわなければならない。

四、ところで、その間、本件建物については、控訴人が、被控訴人主張のように、狩野陸より、根抵当権設定登記及び停止条件付賃借権設定登記を受けたことは、当事者間に争がない。

五、かように、右各登記は、被控訴人のためなされた前記仮登記の後になされたものであるから、被控訴人が、右狩野陸に対し、前記のように、昭和四一年八月二〇日なされた代物弁済を原因として、右仮登記の本登記手続を求めるにつき、控訴人は「登記上利害の関係を有する第三者」として、その承諾をなす義務があることは明らかである。従つて、被控訴人より控訴人に対し右承諾を求める本訴請求は理由があるものとして認容できる。

しからば、右請求を認容した原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却する。

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